自閉スペクトラム症とは
「人の気持ちがわからない」など対人関係やコミュニケーションが苦手、かつ特定の行動・興味に対して強いこだわりがあることを特徴とする発達障害の一つです。
これまでは、自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害など、様々な分類がなされていました。
しかし現在では、それらは連続体(スペクトラム)であると捉え、「自閉スペクトラム症」と一つにまとめて呼んでいます。
障害の特性は幼年期(3〜5歳ごろ)に明らかになることが多いですが、知的発達の障害を伴わない場合や、症状が軽度の場合には、成人になってから初めて診断されることもあります。
自閉スペクトラム症の原因
発症の原因ははっきりとはわかっていませんが、複数の遺伝子の影響や、妊娠期間中の喫煙やアルコール摂取の問題など、様々な誘因が関与して発症のリスクが高まると言われています。
ただ、これまでの研究から、養育方法やしつけが原因では無いことは分かっています。
自閉スペクトラム症の症状
対人関係やコミュニケーションが苦手
相手の気持ちを汲み取ったり、想像したりすることが苦手で、遠回しな言い方や、相手の表情、ジェスチャーなど非言語的な意味合いを読み取れないことがあります。 そのため、以下のような症状が見られることがあります。
- 相手への配慮が出来ない
- 暗黙のルールを理解出来ない
- 集団行動を好まない
- 状況判断が苦手
- 相手にお構いなくマイペース
- 相手と共有できない独特の意味づけを持った言葉を用いる
- 比喩や皮肉・冗談が通じない
- 言葉通りに受け止めてしまい文脈が理解出来ない
- 興味や楽しみを相手と共有出来ないなどの特徴が見られます
- 一人を好むが、受動的な対人関係が多い
- 積極的だが一方的に関わる
など
特定の行動・興味について強いこだわりがある
特定の事柄などへの強いこだわりがあり、興味に偏りがあります。そのため、以下のような症状が見られることがあります。
- 特定の物の収集をする
- 自分の興味があることについては膨大な知識を記憶する
- スケジュールや生活習慣が突然変わることが苦手
- 臨機応変に対応するといったことが難しいときがある
- 予想外の事態で混乱したり、その影響でトラブルになる時もある
など
感覚が過敏になりやすい
特定の感覚が敏感だったり、逆に鈍感だったりします。
聴覚が過敏で、ちょっとした騒音でも外出や日常生活に支障が出たり、触覚が過敏で特定の素材の服しか着られなかったり、味覚が敏感で極端な偏食になるなどの症状が見られ、社会生活に支障が生じる場合があります。
また協調運動(同時に2つ以上の動作を行うこと)が苦手で、不器用さが見られることもあります。
二次障害
自閉スペクトラム症は個性の一種であり、置かれた環境によって成功する人もいれば、逆に社会から孤立してしまい生きづらくなる人もいます。
後者のような場合、社会的な不適応がストレスとなり、不安や不眠、易刺激性、抑うつ気分などが生じたり、他の精神疾患を併発することがあり、これらを二次障害と呼びます。
自閉スペクトラム症の診断
先に挙げた症状の有無や、それらが幼少期より持続していたかどうか成育歴の確認、また必要に応じて心理検査などを行い、総合的に診断を行います。
心理検査として、当院では自閉症スペクトラム指数(AQ)成人用や、ウェクスラー式知能検査(WAIS-Ⅳなど)などを行います。
また二次障害が併存している場合は、それらに対する診断も行います。
自閉スペクトラム症の治療
薬物治療
薬物療法で自閉スペクトラム症の特性を根本的に治療することは出来ませんが、二次障害などによる不安や不眠、易刺激性、抑うつ気分などが強い場合や、他の精神疾患を併存している場合は、薬物療法でこれらの症状を軽減させることで、日常生活を送りやすくなる可能性があります。
当院ではご本人やご家族と相談しながら、必要と判断される場合は薬物療法も行います。
心理社会的療法
軽度の自閉スペクトラム症の方の場合、幼少期に診断をされず、学校生活の中や社会人として働くようになってから、また結婚後に家庭を持ってから、その特性のために社会生活に支障が出てくることもあり、対人トラブルや二次障害などが生じやすくなります。
自閉スペクトラム症の方がその症状のために、何かしら生活に支障を感じている場合に、症状に対して「治療」をするのではなく、症状を「個性・特性」として捉え、患者さん自らが状況に応じて適切な行動が取れるように「自分自身の特性を理解」したり、家族や学校、職場など「周囲の人に理解してもらう」ことで、障害を少なくしていくことがとても重要です。
当院では、心理検査の結果を、ご本人にお渡しして説明を行い、またご本人のご希望があれば、ご家族や学校、職場に情報提供させていただくことも可能です。
ご自身の特性を知ることや周囲への環境調整を行うことで、日常生活に生じている障害を出来るだけ少なくしたり、個性と捉え直すことで、自己肯定感を高めたり、二次障害を軽減させるよう、出来る範囲でサポートしていきます。